官能小説|雪の幻 Sec.3 恋の入口
2014年11月12日 公開
Sec.3 恋の入口
それから数日、松田とはメールでやり取りをした。
彼と話がしたいという気持ちはまだ続いていたが、
わざわざ意味もなく電話をするほど雪菜は焦っていなかった。
年齢を重ねていることもあるのか、
この恋の入口は雪菜自身が不思議に思うほど、
実に落ち着いているのだった。
だが1週間後の夜、松田からの電話が鳴ったときは
さすがに一瞬どきりとした。
部下の取り次ぎに平静を装い、電話を受けた。
「お電話替わりました、井上です」
「あ、松田です。先日はご足労いただきましてありがとうございました」
「いえ、とんでもないです。暖かい日でよかったですよね」
「本当ですね。でも実は僕、気温差にやられて少し風邪をひいてしまいました」
恥ずかしそうに笑いながら話す松田の声は、確かに少し鼻声のようだった。
「あら、大丈夫ですか?」
「ええ、もうほとんど治っていますので。あ、余計な話をすみません」
松田は少々堅い声色で要件を切りだした。
イベント会場の下見についてだった。
「来週の木曜ですね、大丈夫です。
ちょっと遅いですが19時くらいに伺ってもよろしいですか?」
雪菜は電話を顎と左肩で挟み、手帳に予定を書き込む。
心なしか、ペンの動きが軽やかだ。
「はい、ありがとうございます!
今回の現場は少し狭いみたいなので、
どうなるかちょっと心配なんですけどね。でも楽しみにしています」
松田はそう言うと、失礼します、と電話を切った。
楽しみにしていると言ったのは、もちろん下見のことなのだろうが、
雪菜は心が躍った。
またあの目を見つめて話せると思うと、
正直に雪菜も楽しみだった。
はるかに若いであろう相手に
何をこんなにときめいているのか、と思いつつ、
手帳の日付に丸印を書き込んでいる自分がいるのだった。
それから数日、松田とはメールでやり取りをした。
彼と話がしたいという気持ちはまだ続いていたが、
わざわざ意味もなく電話をするほど雪菜は焦っていなかった。
年齢を重ねていることもあるのか、
この恋の入口は雪菜自身が不思議に思うほど、
実に落ち着いているのだった。
だが1週間後の夜、松田からの電話が鳴ったときは
さすがに一瞬どきりとした。
部下の取り次ぎに平静を装い、電話を受けた。
「お電話替わりました、井上です」
「あ、松田です。先日はご足労いただきましてありがとうございました」
「いえ、とんでもないです。暖かい日でよかったですよね」
「本当ですね。でも実は僕、気温差にやられて少し風邪をひいてしまいました」
恥ずかしそうに笑いながら話す松田の声は、確かに少し鼻声のようだった。
「あら、大丈夫ですか?」
「ええ、もうほとんど治っていますので。あ、余計な話をすみません」
松田は少々堅い声色で要件を切りだした。
イベント会場の下見についてだった。
「来週の木曜ですね、大丈夫です。
ちょっと遅いですが19時くらいに伺ってもよろしいですか?」
雪菜は電話を顎と左肩で挟み、手帳に予定を書き込む。
心なしか、ペンの動きが軽やかだ。
「はい、ありがとうございます!
今回の現場は少し狭いみたいなので、
どうなるかちょっと心配なんですけどね。でも楽しみにしています」
松田はそう言うと、失礼します、と電話を切った。
楽しみにしていると言ったのは、もちろん下見のことなのだろうが、
雪菜は心が躍った。
またあの目を見つめて話せると思うと、
正直に雪菜も楽しみだった。
はるかに若いであろう相手に
何をこんなにときめいているのか、と思いつつ、
手帳の日付に丸印を書き込んでいる自分がいるのだった。