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官能小説|雪の幻 Sec.1悲しみの瞳

雪の幻

Sec.1 悲しみの瞳

その男は、いつも目の奥に悲しみをたたえていた。
例えるなら、群れに入れずに孤独に耐えようとする雄ライオンのそれと似ていた。
諦めと憂いを併せ持ち、それでいてプライドは捨てきれず、幾許かの威嚇を含んでいる。
井上雪菜は、会うたびにその男の瞳に目を奪われていた…。


雪菜が初めて松田に会ったのは、小春日和の日だった。
2月だというのに春めいていて、日差しが暖かい。

雪菜はイベント会社で企画営業をしている。
37歳という年齢もあるが、ある程度の役職もつき、仕事は順風満帆だ。
常に日本中バタバタと飛び回っているため、家に帰るとぐったりしてしまうが、
イベントが成功しクライアントに貢献できたときは、それ以上のやりがいを感じられた。
雪菜は、それなりに充実した毎日を過ごしていた。

その日も映画のプロモーションのためのイベントを任され、
打ち合わせのためにクライアントの元へ訪れていた。
クライアントとなる映画会社の会議室で担当者を待っていると、現れたのが松田だった。

正直、第一印象は若い、と思った。
電話で話している限りではかなり落ち着いていたので、
30代かと思っていたが、見た目は完全に20代だ。
だが、名刺交換をして席につき、改めて顔を見たとき、
目の印象に釘づけになった。

端正な顔立ちに、目にかかりそうなくらいの前髪の長さ。
ふいに、揺れる前髪の奥にたたえた瞳が、とろりと揺れた。
目が合ったとき、驚くほどドキリと胸が高鳴った。
こんな感覚は久しぶりだった。
関由佳
Posted by関由佳

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