官能小説|雪の幻 Sec.5 潤んだ瞳
2014年12月18日 公開
Sec.5 潤んだ瞳
それからまた1週間ほどしたある日。
松田から電話があり、
会社の近くに来たので今日またお食事でも、という誘いがあった。
午後に長引きそうな会議があったが、二つ返事で受けた。
予想通り会議は長引いたが、
雪菜は明日の自分にすべてを任せて、定時に会社を出た。
指定された丸の内のバーに入ると、
一人夜景の見えるカウンターで松田が待っていた。
背景が輝き、松田の美しさが際立っているように感じた。
声をかけると松田は微笑み、
「お忙しいのに急にお呼び立てしてすみませんでした。
いいお店を見つけたので、どうしても井上さんにお見せしたくて」と、はにかんだ。
雪菜はまた期待する気持ちが高鳴り始めたが、
ぐっとこらえて「ありがとうございます」と言うにとどめた。
大人になるとなんで素直に受け入れられないのか、
傷つきたくなくて自分を守るような
心のない回答を選ぶ自分に悲しさを感じた。
それから夜景を見ながらワインを飲み、
二人は会話を楽しんだ。
しばらく会話は仕事中心だったが、
突然、松田から
「井上さんは本気で恋愛をしたことがありますか?」と聞かれた。
ワインが入っているからか、
場所の雰囲気がそうさせているのか、
いつもより松田は饒舌だった。
「どうかな。どの程度が“本気”なのかもわからなくなってるかもしれないわね」
雪菜は松田の質問の意図が読めず、当たり障りのない回答をした。
「なるほど。僕は女性と交際をしても、何か違うといつも感じていました。
それが何なのかまだ答えが出ていない」
「性格の相性とか、食の好みとか?」
「いや…もっと深い部分。
目に見えないフィーリングというか、ほら、よく聞くじゃないですか。
次に何をしたいというのが一致したり、
相手が急に歌いだした鼻歌を自分も頭で歌ってたとか」
「それを求めたらなかなか難しいわね」
雪菜は若々しい恋愛の理想論を聞いて、思わず微笑んだ。
セックスの相性もそんなものかもしれない…と頭の端で思う。
「井上さんが最後に恋愛したのはいつですか?」
松田は飲んでいた焼酎のグラスを握りしめながら、
突如として聞いてきた。
「そうね…いつかな。もしかしたらもう10年以上前くらいかもしれない」
「それ、誰かを今思い出していますか?」
「え…?」
松田がすぐ目の前で、あの悲しみをたたえた目で見つめている。
その目を受け止めきれず、軽く発情している自分に気付いた。
ふと松田が将俊と重なる。
「そんなの…」
言いかけたとき、突然松田の手が雪菜の手を握った。
「僕、井上さんにお会いしてからおかしいんです。
自分でも抑えきれないほどあなたに会いたくなる」
あまりに刹那的で、雪菜は目眩を覚えた。
アルコールにうるんでいるのか、
松田の目はさらに悲しみと欲情を併せ持った目に変化していた。
雪菜は何も言わず、その手を握り返した。
それだけで回答になるほど、雪菜の目も十分に潤っていた。
それを感じたのか、松田は突然立ち上がり、雪菜の手を引いた。
雪菜には、松田が何を考えてどうするのかがわかっていた。
嬉々として黙ってついていくのだった。
それからまた1週間ほどしたある日。
松田から電話があり、
会社の近くに来たので今日またお食事でも、という誘いがあった。
午後に長引きそうな会議があったが、二つ返事で受けた。
予想通り会議は長引いたが、
雪菜は明日の自分にすべてを任せて、定時に会社を出た。
指定された丸の内のバーに入ると、
一人夜景の見えるカウンターで松田が待っていた。
背景が輝き、松田の美しさが際立っているように感じた。
声をかけると松田は微笑み、
「お忙しいのに急にお呼び立てしてすみませんでした。
いいお店を見つけたので、どうしても井上さんにお見せしたくて」と、はにかんだ。
雪菜はまた期待する気持ちが高鳴り始めたが、
ぐっとこらえて「ありがとうございます」と言うにとどめた。
大人になるとなんで素直に受け入れられないのか、
傷つきたくなくて自分を守るような
心のない回答を選ぶ自分に悲しさを感じた。
それから夜景を見ながらワインを飲み、
二人は会話を楽しんだ。
しばらく会話は仕事中心だったが、
突然、松田から
「井上さんは本気で恋愛をしたことがありますか?」と聞かれた。
ワインが入っているからか、
場所の雰囲気がそうさせているのか、
いつもより松田は饒舌だった。
「どうかな。どの程度が“本気”なのかもわからなくなってるかもしれないわね」
雪菜は松田の質問の意図が読めず、当たり障りのない回答をした。
「なるほど。僕は女性と交際をしても、何か違うといつも感じていました。
それが何なのかまだ答えが出ていない」
「性格の相性とか、食の好みとか?」
「いや…もっと深い部分。
目に見えないフィーリングというか、ほら、よく聞くじゃないですか。
次に何をしたいというのが一致したり、
相手が急に歌いだした鼻歌を自分も頭で歌ってたとか」
「それを求めたらなかなか難しいわね」
雪菜は若々しい恋愛の理想論を聞いて、思わず微笑んだ。
セックスの相性もそんなものかもしれない…と頭の端で思う。
「井上さんが最後に恋愛したのはいつですか?」
松田は飲んでいた焼酎のグラスを握りしめながら、
突如として聞いてきた。
「そうね…いつかな。もしかしたらもう10年以上前くらいかもしれない」
「それ、誰かを今思い出していますか?」
「え…?」
松田がすぐ目の前で、あの悲しみをたたえた目で見つめている。
その目を受け止めきれず、軽く発情している自分に気付いた。
ふと松田が将俊と重なる。
「そんなの…」
言いかけたとき、突然松田の手が雪菜の手を握った。
「僕、井上さんにお会いしてからおかしいんです。
自分でも抑えきれないほどあなたに会いたくなる」
あまりに刹那的で、雪菜は目眩を覚えた。
アルコールにうるんでいるのか、
松田の目はさらに悲しみと欲情を併せ持った目に変化していた。
雪菜は何も言わず、その手を握り返した。
それだけで回答になるほど、雪菜の目も十分に潤っていた。
それを感じたのか、松田は突然立ち上がり、雪菜の手を引いた。
雪菜には、松田が何を考えてどうするのかがわかっていた。
嬉々として黙ってついていくのだった。